熊野古道中辺路 大門坂

馬越峠は「足元を読む」峠

熊野古道の伊勢路には、海を望む道も、街道の面影を残す道もあります。そのなかでも馬越峠は、石畳と深い木立の印象が強い峠道として知られています。尾鷲のまちから山へ入っていくと、空気がふっと湿り気を帯び、足元には長い年月を経た石が現れます。

大きな展望を目当てにするというより、一歩ごとに表情が変わる道そのものを味わう場所。だからこそ、この記事では景色の話より先に「足の置き場」の話をしたいと思います。

石畳を気持ちよく歩く3つのコツ

1. 石の「真ん中」より「縁と縁のあいだ」を見る

石畳は、中央がすり減って丸みを帯びていたり、石と石の間に段差があったりします。視線を2〜3m先に置き、平らな面が続くところを拾って歩くと、足が自然に運べます。足元だけを凝視すると疲れやすいので、少し先を見るのがポイントです。

2. 苔の上は「踏まない」がやさしい

尾鷲周辺は雨の多い土地として知られ、石畳も湿っていることが少なくありません。緑の苔は美しい反面、濡れると滑りやすくなります。苔の色が濃い場所は避け、乾いた石の面や土の部分を選びましょう。道の苔を守る意味でも、踏み荒らさない心がけが大切です。

3. 下りは小さな歩幅で、手はポケットから出す

石畳の下りは、膝よりも足首と足裏に気を使う場面が多くなります。歩幅を小さくし、かかとから落とさず足裏全体で着地するイメージで。手をポケットに入れたままだと、つまずいたときに踏ん張れません。ストックを使う場合は、石の隙間に先端を挟まないよう注意してください。

木立の中で、立ち止まってみる

馬越峠の道中は、杉やヒノキの林が続く区間が印象的です。ずっと歩き続けるより、ときどき立ち止まって耳を澄ますのがおすすめ。風が梢を抜ける音、遠くの鳥の声、自分の呼吸。石畳の道は、昔の旅人も同じ静けさの中を歩いたのだろうと想像させてくれます。

休憩は、足場が安定していて通行の邪魔にならない場所を選び、水分と軽い行動食をこまめにとると、後半の足取りが違ってきます。

出かける前の小さな備え

歩いたあとの余韻

峠を越えて里に下りると、石の感触が足の裏にしばらく残ります。それは景色の記憶とは少し違う、「道を歩いた」という実感です。尾鷲周辺のまちで、海の幸を味わいながら一日を振り返るのも伊勢路ならではの楽しみ。馬越峠は、派手さよりも静けさと手触りで心に残る、そんな熊野古道です。


画像: 熊野古道中辺路 大門坂((公社)和歌山県観光連盟 より引用)